この「染付松竹梅文水注」は、後期鍋島焼の中でもとりわけ気品と実用性が融合した逸品です。生活の中で使われる道具でありながら、そこには鍋島ならではの美意識と繊細な絵付の技が息づいています。 　まず目を引くのが、白磁の素地に染付で描かれた松竹梅の絵付です。松は常緑、竹はまっすぐに伸びる姿、梅は寒中に咲く花として、それぞれ「長寿」「節操」「忍耐」を象徴し、吉祥の意を込めて古来より愛されてきた文様です。この水注においては、筆致にわずかな滲みをもたせたような柔らかな表現が特徴で、まるで水墨画を思わせるような静謐な美しさを漂わせています。絵付の中に空間を残す“間”の取り方にも、鍋島焼特有の洗練された美的感覚が感じられます。 　器形も非常に魅力的です。全体は円筒形で安定感があり、控えめでありながら端正なバランスを保った造形です。やや細身の注ぎ口と、直線的な取手が付けられた構成は、無駄のない機能的なデザインでありながら、どこか愛嬌のある佇まいを持っています。また、蓋にも同じく松竹梅の絵付が施されており、器全体としての統一感と完成度を高めています。 　後期鍋島の特徴として、より日常の器としての実用性が意識される一方で、その中に“格”を残す工夫が随所に見られます。この水注も、日々の暮らしの中に自然に溶け込みながら、ふとした瞬間に持つ者の心を静かに打つような品格を備えています。絵付の美、形の整い、そして手に取ったときの安心感。すべてが高次元で調和しており、まさに「用の美」の極みともいえる作品です。 ★寸法★ 直径8㎝ 高さ6.8㎝ 陶磁器の町、佐賀県伊万里市在住で古物商（第911100009525）を営んでおります「陶磁器ヨーソロー」と申します。 古伊万里、現代作家もの、個人で製作活動しているレアな窯元、有田焼伊万里焼の陶磁器を中心に出品しております。 未使用品に関しては陶磁器商社、骨董に関しては古物競りやコレクター依頼品でございますので、ご安心くださいませ。